消えた友人は本当に消えたのか [Tr''aumerei]

さおだけ屋はなぜ潰れないのか……みたいな。



仮にこんな怪談があったとします。


私の通う高校には開かずの間がありました。
といっても何か曰くがあって閉じられていたわけではなく、
ただ単純に、過疎化による生徒数の減少によって使われなくなった教室に
鍵がかかっていたというだけなのですが。

ある日の放課後、仲の良かった友人と一緒に、
その開かずの間を校庭から眺めていると(開かずの間は四階の端にありました)、
窓が開いていることに気が付きました。

今まで窓が開いていたことなんて一度もありません。
私は誰かが開かずの間を開け、部屋の中に入ったのだと思い、
急いで昇降口から四階の開かずの間へと向かいました。

開かずの間の前に来ると、やはり扉が開いていました。
開かずの間とはいえ、職員室には鍵があるだろうし、
扉が開いたこと自体には、それほど不思議はないのですが、
開かずの間付近に、扉を開けたであろう人間どころか、
ひと気が全くないのが不思議……というよりも不気味でした。

開かずの間の構造は、普通の教室と変わりません。
しかし、机や椅子が一つもないのに違和感がありました。
普通、こういった部屋には使わなくなった机や椅子が
たくさん詰め込まれているものではないでしょうか。

もう一つおかしなことがありました。
閉じられていた部屋にしては妙に綺麗なのです。
まるでつい最近まで使っていたような……。
まるでつい最近まで大勢の人がいたような……。
そんな気配、雰囲気が感じられます。

校庭で、開かずの間が開いているかもと思った時は、
中に入ってみたいと思っていたのに、そんな気持ちは、
この部屋の様子を見て、すっかり萎えてしまいました。
私は逃げるようにその場を離れ、家に帰りました。

次の日、友人にこの話をし、一緒に開かずの間を確認しに行ったのですが、
扉も窓も、すでに元のように閉じられていました。
いったいあれはなんだったのでしょうか。
そして、あの時、部屋に入っていたら何か起きたのでしょうか。



この怪談は、一見なにも起こっていないように思えます。
しかし語り手も気付いていませんが、実は友人が一人消えているのです。
校庭から友人と一緒に窓が開いているのを見て、
一人で見に行くのは不自然ではありませんか?
ここで突然、友人は物語から存在が消えてしまったのです。
友人は一人で先に帰ったのかもしれませんが、
本当は二人で見に行って、友人は部屋に入ってしまったのではないでしょうか?
そして消えてしまったのではないでしょうか。
それを見た語り手は怖くなって逃げたのではないでしょうか。

消えた友人は消えたのか、消えなかったのか。




消えた友人についての余談

よく知り合いが消える怪談がありますが、
なぜか語り手だけがその存在を覚えているパターンが多く、
語り手も存在を忘れているパターンはあまり見かけません。

しかし語り手だけ覚えているパターンは不自然だと思いませんか。
お前は特別な存在なのか?と言いたくなります。
存在が消えるのなら語り手の記憶からも消えるのが自然です。

語り手にだけ友人の記憶が残っている場合、いくつかの可能性が考えられます。

1,友人は消え、語り手以外の全人類の記憶からも消え、世界中から痕跡も消えた
2,語り手の脳に友人が存在したという偽の記憶が作られた
3,友人が消えたのではなく、語り手が友人の存在しない別世界に移動した

1はあまりにも世界規模です。宇宙規模かもしれません。
たかが日本の一怪談に起きていい現象ではないと思いませんか?
よって2か3なら一人の人間をどうにかすればいいだけなので、
ギリギリ起きてもいいかな?と思えます。
2は初めから存在しない友人なので消えません。
3は消えたのは自分です。友人は消えていません。

つまり消えた友人は消えていないのです。
ところで消えるってこんな漢字でしたっけ。
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